X.これからの取り組みの課題
福岡教育大学は教員養成大学である。「T日本と世界の障害者施策と障害児教育の動向」でも述べたように、障害のある学生も教員免許を取得し、教員採用試験に合格すれば教員になることが本来的には可能である。このような事実を全学の教官および学生が十分に認識し、学びたいという意欲のある学生を全学で支援していかなければならない。しかしながら、往々にして自らの関係する課程等に障害のある学生が入学してこない限り、なかなかにして注意を払わない、意識を向けないのが一般的であろう。
この問題への対策としては、@パンフレットや、ガイドライン、マニュアル等を作成し、ひろく周知徹底を図る、A特に学長、副学長、事務局長、各課長といった大学運営を担う地位にある者がことあるごとに「意識を高める」ような、あるいは「意識の高い」内容の発言をする、Bことあるごとに各講座・教室等に検討依頼文書等を配布し、意識づけを行う、といった地道な活動の積み重ねが肝要であろう。特にAにおいて、学長裁量経費でプロジェクト研究として「障害のある学生の支援システムに関する研究」を募集する等の障害者対策を推進する企画を含むものとする。
以下にも述べるように、障害のある学生への支援体制等の整備を阻害する要因を辿っていくと、根本に「意識の低さ」がある場合が多い。したがって、「意識」の問題をまず最初に強調する。
大学として、設備等の点でさらなるバリアフリーを実現する必要がある。
例えば、学生が相談のため学生センターへ行くとすると、エレベータがない建物の2階に行かなくてはならない。すなわち、階段が上れない学生は相談に行くことすら困難ということになる。あるいまた、この大学全体が山の中腹に立地しているため、正門を入るところからすぐに急な坂道が続いている。身体障害のある学生にとっては、この坂道のところからバリアが立ちはだかっていることになる。
このようなバリアを除くには、具体的には、奥に建っている建物まで動く歩道の整備、側溝のグレージング(金網の蓋)の整備、チャッターバー(車の速度を緩めるための道路の突起)の除去等が提案できる(あるいは大学を移転するか)。
なお、このような施設・設備面の整備には全学的な理解が必要であることはいうまでもない。
以下に表として、本学構内の施設・設備のバリアとその対策について示す。
表12 本学構内施設・設備の状況(バリアとその対策)
1.学生課・厚生課周辺 @新食入り口
・スロープに行くまでに急な斜面がある。
・ドアが押し引き式で車椅子だと開けにくい。
・入り口の段差はない。A新食入り口(旧食側)
・スロープの斜面が急で、上りにくい。
・スロープと道のつなぎ目が斜めになっていてスロープへ行きにくい。
・スロープで上がれても入り口に段差があるため、中に入れない。(対策)
・上りやすいスロープを設置する。
・スロープに行くまでの道を舗装する。
・段差の解消。B学生課
・2階にあるため、階段を上ってしか行けない。
・学生課に入るドアは引き戸式だが、段差があって車椅子では上れない。(対策)
・一階に移動するか、エレベーターを設置する。
・段差の解消。C厚生課
・入り口はスロープになっていて行きやすい。
・ドアは押し引き式で車椅子だと開けにくい。(対策)
・開けやすいドアにする。2.旧食・学生会館周辺 D旧食入り口(新食側)
・スロープは登りやすい勾配。E旧食 自動販売機
・車椅子だと販売機の上の方には手が届かない。
・取り出し口が下の方にあって取りにくい。(対策)
・車椅子でも利用しやすい販売機を設置する。F旧食入り口(書籍部側)
・押し引き式のドアで開けるときに困難。
・ドアが片側しか開かず、出入り口が狭い。(対策)
・開けやすいドアにし、幅を広くする。G書籍部
・荷物で通路が狭いため、車椅子では通れない。(対策)
・荷物の整理などして通路を広くする。H生協
・階段でしか生協に行けない。(対策)
・一階に移るか、エレベーターの設置。I学生会館東口(一階生協側)
・階段があって出入りができない。(対策)
・スロープの設置。J学生会館 障害者トイレ
・中は回るにも十分な広さ。
・引き戸で開けやすい。
・女子トイレと入り口が一緒のため、男性は入りにくい。(対策)
・障害者用トイレを独立して設置するか、入り口を別に設置する。3.中庭、図書館周辺 K銀行
・福岡銀行に行くまでの通路がギチギチで通れない。
・ドアが開けにくくて入れない。
・福岡シティ銀行の前は段差があって入れない。
・中は狭く、車椅子で回ることは困難。(対策)
・ゆとりある広い通路にする。
・押し引き式ではなく、開けやすいドア。
・スロープの設置。
・中をゆとりのある広さにする。L旧食、新食間
・道が斜めになっていて通りにくい。(対策)
・滑らかで水平な舗装にする。M図書館
・本棚の上の方にある本に手が届かない。
・机の間の通路が狭い。
・本棚と本棚の間隔は問題ない。
・身障者用トイレがない(洋式トイレはあるが狭い)。
・エレベーターの幅が狭く、入る時にスムーズに入れない。(対策)
・車椅子のままでも手の届く高さに並べる。
・机をずらして、十分な幅をとる。
・身障者用トイレを設置する。
・エレベーターの中、入り口ともに車椅子が利用しやすい仕様にする。N視聴覚ホール
・階段でしか教室に行けない。(対策)
・エレベーターの設置。O共通講義棟
・スロープが1つしかなく、行ける教室が限られる。
・スロープがあっても教室に行くまでに階段があり、スロープの意味がない。
・スロープは距離が長く、角があり上る時に困難。(対策)
・上りやすいスロープを全ての教室に行けるように設置。
・教室に行くまでの段差を解消する。4.障害児教棟・センター周辺 @車止めのある道路
・車止めをよけてしか通れない。
・端には溝があり、落ちそうで危ない。
・車椅子で通れる幅76センチ。(対策)
・車止めを減らして通れる幅を広くする。
・溝にふたをする。Aセンター入り口付近
・マンホールがあり、くぼんでいる。
・溝のふたは鉄柵であり、前輪がはまる可能性がある。(対策)
・コンクリート製のふたにするか鉄柵の幅を狭くする。B障害児教棟入り口付近
・溝があり道路がくぼんでいて前輪がつまづく。(対策)
・舗装する。C障害児教棟自動ドア付近
・溝のふたの穴に前輪がはまる。
・道路の傾斜が激しく、進みづらい。(対策)
・穴を小さくする。5.障害児教棟 D共通資料室
・入り口ドア幅77センチ。
・ドアは押して開ける、ドアが重くすぐに戻ってくるので一人では開けにくい。
・教官出入り口のドアは軽くて開けやすい。(対策)
・ドアは軽く開けやすい引き戸にする。Eエレベーター
・入り口幅76センチ、横幅80センチ、奥行き100センチ。
・入り口に少しの段差あり。
・ドアが閉まるまでの時間20秒。
・両側に手すりがあるが、車椅子には中途半端には中途半端な高さで邪魔である。
・車椅子用のボタンには「閉」のボタンがなく、普通のボタンは届きにくい。
・呼び出しボタンあり。(対策)
・もっと全体的に広くして中で回転できるようにする。
・閉まるまでの時間があと10秒は欲しい。
・手すりは不要。F一般トイレ
・段差があり車椅子では通れない。G障害者トイレ
・入り口はカーテン(入り口幅81センチ)。
・中は回るのにも十分な広さ。
・水道は長いレバーを押す。
・電気のスイッチは低い位置でちょうど良い。
・鏡は斜めで見やすい。
・流すレバー便器の後ろにしかなく、押しにくい。
・非常用ボタンあり。
※2、3Fには身障者用トイレはない。H廊下
・通路幅が130センチの廊下にロッカーや机が置いてあり、通るのには邪魔。(対策)
・廊下には物を置かない。Iスロープ(3F〜人文教棟)
・外に出るドアは引き戸で鍵が小さく、握りにくく重い。
・外に出るとすぐ多くの段差がある。
・スロープはひびが入ってて、でこぼこになっている。
・スロープと道のつなぎ目に段差あり。(対策)
・スロープは舗装する。J幼稚園教棟(元障演)
・入り口のスロープのすぐ横が駐車場で車が止めてあったら通れない。
・スロープに段差がある。
・入り口のドアは重く開けられない。
・手すりの前にロッカーが置いてある。
・トイレは子ども用に作ってあるので狭い。
・水道は長いレバーを押す。(対策)
・スロープ付近には駐車しない。
・余計なものは置かない。6.障害児治療教育センター K階段
・手すりあり(高さ89センチ)。 1〜3Fまでつながっている。L入り口
・自動ドア幅97センチ。
・玄関段差3センチ。・・・支障なし。
・センター前の坂を一人で登るのは困難。Eエレベーター
・障害児教棟と同じ。M廊下
・横幅2センチ。
・手すりあり(壁からの幅7センチ、高さ82センチ)。
・手すりの前に長椅子あり。(対策)
・手すりが使えないので、ないほうがよい。N身障者トイレ(1、2F)
・入り口の幅92センチ。
・水を流すボタンが足元にもある。
・水道はセンサーで水が出る。教官も、障害のある学生が学ぶ場としてどのような授業実施上の配慮が必要か、あるいはどのような授業方法が効果的か、教官自身が学ぶ機会が必要である。そのための研修・講習会を定期的・継続的に開催することが考えられる。なお、このような研修会等を開催しても意識が低い教官は参加しないので、それでは意味がない。このような教官には参加を促す等、全学的に意識を高める配慮が必要であることはいうまでもない。
学生にとっても、障害のある学生がともに学ぶことが、特に意識されないほど日常的で普通のできごとになることが望まれる。障害のある学生の支援として、ノートテイク、手話通訳、点訳等さまざまなものがあるが、そのような支援方法を学び、ボランティアとして支援することが自然であるという状況が育まれるような教育環境を整備していかなければならない。
しかし、大学としてはボランティア依存のみだと、ボランティアがいない(特定の時間、曜日等を含む)場合には、障害のある学生への対応ができないことになるため、何らかの対応策を考える必要がある。例えば、ボランティアによる支援システムと、有償の支援者(手話通訳者等)によるシステムとを併用する等が考えられる。
学長の裁定で設置された「障害のある学生支援懇談会」は、教官(副学長、学生が所属する教室等から選出された教官、障害児教育講座から選出された教官、教務委員会委員長、学生委員会委員長)および事務官(会計課長、施設課長、教務課長、学生課長および厚生課長)から構成される(資料4参照)。事務系機関としては、会計課、施設課、教務課、学生課および厚生課の各課が関与しており、支援窓口が設置されるも教務課課長補佐が担当する、というように一元化されていない。今回われわれが研究のための情報を収集するにあたって、ある学生について一括して記録を管理している部局が存在せず、実習については〜課、設備面については〜課というように、過去の記録がそれぞれ担当部局に散在している、という状態であった。「障害のある学生支援懇談会」も、支援窓口としては教務課課長補佐(あくまで部局ではないことに留意する必要がある)があたっているが、記録としては各課に保存されることになろう。障害のある学生の支援は、特別な配慮に関する審議や、特別な配慮を必要とする対応が求められることから、記録等の担当部局は一元化されることが期待される。
「障害のある学生支援懇談会」は、現在は具体的な活動は行っていない。それは、本年度に支援が必要な学生を調査した際、視覚障害のある学生と車椅子使用の肢体不自由の学生の2名しか在籍していないことが明らかになり、二人とも特に日常的に困難な状況は認められないからである。したがって、今後障害のある学生が入学したときにどのように機能していくのかは未知数である。また、これまで述べてきたように、本来的に大学は、障害のある学生が在籍しておらずとも、常に就学時を想定して対応を進めていかなければならない。したがって、障害のある学生が在籍しない間は機能しないモザイク的組織では社会的に要請される機能を十分に果たし得るとはいい難い。このような意味でも、今後は全ての情報が集約され、ノウハウが蓄積されていくような専門機関の設置が望まれる。例えば「障害のある学生支援室(仮称)」というかたちで、必要に応じて他の課との連絡調整を行いながら、入学試験から卒業までのすべてに一元的に対応し、記録を保管する機関(課)が設置されれば、今後新たに障害のある学生が入学した場合の対応も専門的に行えるであろう。すなわち、ノウハウの蓄積が望まれる。また、蓄積されたノウハウはガイドライン等の作成というかたちで結実されることが望まれる。
また、従来は「できるひとができることを好意で行っていた」支援であった。そのため、一部の人に重い負担がかかっていた。今後は「だれもが自分のできる事をできる範囲で気軽に行う」というシステムの創出を並行して検討していくことが望まれる。
大学としては障害のある学生への通信による教育・支援システムの開発が急務である。たとえば、ITネットワークを通じたバーチャル・ユニバーシティ等である。学びたい人が、学びたいときに学びたいことを学べたり、わざわざ足を運ばなくとも家から休講等の教務関係情報を入手できることは、障害のある学生だけではなく、健常者である学生にとっても有益なシステムである。
上記で指摘してきた点以外にも、優れた事例に学び、対応を図っていくことが望まれる。
障害学生への支援を考える際、対応する組織の設置、支援の実施等は学内で解決すべき問題となるが、法令や制度のように本学だけでは解決できない問題もあれば、教材作成や共同講義のように本学だけで解決しようとするよりも諸機関との連携を図った方がよい問題がある。
ここでは、視覚障害者・聴覚障害者の支援に視点を当てて本学と諸機関との連携について言及したい。
個々の大学で支援に関する教材やコンテンツを準備するよりも、多くの大学で共有化を図れば、手間や労力が省かれるし、利用者の利便性も向上すると思われる。共同講義や障害学生支援に利用できる教材やコンテンツの作成・配信等を考えると、放送大学やメディア教育開発センタ−が基幹機関として取り組むべきだ。本学からも1名共同研究員としてメディア教育開発センタ−のプロジェクトに参加・協力している。
人的な問題として、実際の支援にあたるスタッフの養成が学内だけでは行えない場合がある。そのため、外部の機関に依頼しなければならないことになる。点訳サ−クル、朗読サ−クル、手話サ−クル、要約筆記サ−クル等に依頼することになるが、大学での講義内容を理解した人でなければ充分な情報保障は望めないことになる。障害学生のニ−ドに対応できるだけの人材を養成するにはやはり学内での養成が必要となる。外部機関との連携を計るときには、派遣にかかる費用も課題となる。
国立の教員養成系大学・学部の在り方に関する懇談会(2001)が、報告書の「現職教員の再教育のための体制整備」の項で、「衛星通信、インターネット等を活用した遠隔教育の実施」を挙げているので、設備・機器面では充実・整備が図られるものと期待したい。またこの充実・整備を機会に支援の組織を九州地区に拡げていくことも視野に入れたい。
インターネットを用いた学習ならば、障害学生に限らず、自宅での学習を希望する一般学生も便利だ。2003年から2005年にかけて整備される予定の高速バックボーンが実現すれば、現在SCSで行っている授業もインターネット上で行えるといわれている。しかも、このバックボーンによって地域と大学を結んでの連携等が容易に行えることになる。個々の大学単位で支援を行うよりは九州地区を1単位と考えて支援体制の整備・充実を図るのが有益だろう。
■文 献1.広瀬洋子(2000): インフォメ−ションテクノロジ−と高等教育―英国オ−プンユニヴァ−シティにおける障害者の学習支援システム―. メディア教育研究, 6, 1-27.2.国立大学協会第3常置委員会(2001): 国立大学における身体に障害を有する者への支援等に関する実態調査報告書. 国立大学協会.3.国立の教員養成系大学・学部の在り方に関する懇談会(2001): 今後の国立の教員養成系大学・学部の在り方について. 文部科学省.4.瀬田智恵子(1999): オープン&フレキシブルラーニングのための教員教育. メディア教育研究, 3, 27-41.5.山田恒夫(2001): 第2言語教育における情報通信技術の高度利用. メディア教育研究, 7, 29-45.