W.他大学の取り組み

1.国 内

 本章では国内大学の障害学生支援について、先駆的に取り組んでいる私立大学3校、日本福祉大学、立命館大学、関西学院大学の概要を報告する。次いで、国立大学における取り組みの現状として、国立大学協会第3常置委員会(2001)の『国立大学における身体に障害を有する者への支援等に関する実態調査報告書』の概要について報告する。さらに、全国障害学生支援センターの活動についても概述する。

 目次へもどる

(1) 日本福祉大学

 日本福祉大学は国公私立大学の中で最も多数の障害者を受け入れている大学の一つとなっている。また、障害を持つ学生の勉学・生活を、大学として総合的に支援するために、障害学生支援センターが開設されている。パンフレット『障害を持つ学生のために−キャンパス・ガイド』は、障害による困難の理解とその緩和・軽減にかかわる施設・設備の配置場所や特性、それらの利用の仕方などについての情報を提供するために作成された。以下、上記パンフレット(HP)について概要を報告する。

 目次へもどる

1)障害学生に対する取り組みの歴史

 障害に対する特別な手だてについて意識化され始めたのは、全盲学生の受験希望が出された 1969 年からである。「身障入試特別委員会」 が設置され、1970 年度からは特別入試体制(点字出題・解答、別室受験)を発足させた。さらに、障害者体育クラスや定期試験における特別配慮、点字図書の配備等に取り組まれ始めた。1973 年には学生自治会のもとに『学内障害者の勉学・生活条件を守り発展させる会』を発足させ、難聴学生のためのループアンテナの導入、身障者トイレやスロープの設置を要求し、実現させた。

 1983 年のキャンパス移転後には、立体コピー機、音声ワープロ、点字ワープロ、シルバーホン、車椅子用公衆電話等の設備面が整備された。障害学生の入学は130 名を越えるようになった。学生の要求をふまえ、図書館でのリーディングサービス、英語の聴覚障害者特別クラスの設置等の配慮もなされた。

 1991 年に 「障害学生問題特別委員会」、「障害学生の勉学・生活条件改善委員会(障害学生委員会)」 が設置された。「障害学生委員会」では障害学生に対する施策の柱を、@ 施設・設備・機器の改善・充実、A障害学生の安全対策(阪神・淡路大震災後)、B講義やオリエンテーションの改善、Cボランティア体制の充実、の4本に据えた。公衆ファックスや身障者トイレのウォシュレット化、研究室の点字表示、図書館書庫へのフラッシュライトの配備(安全対策)等が実現した。

 講義やオリエンテーションの改善、ボランティア体制については、障害学生、自治会、関係団体とともに 1993年より「障害学生連続講座」を開始した。障害学生奨学金、オリエンテーションへの手話通訳者の配置、講義資料の点訳体制、教材ビデオの字幕付け等が実施された。一般学生、新任教員にもオリエンテーションを通して障害学生の支援について周知を図った。

 1998 年4月「障害学生支援センター」 が設置された。入学前から卒業までの学生生活における特別な配慮のあり方について見直し、きめ細かな取り組みが進められた。

 1998年5月現在、身体に障害のある学生は1998 年5月現在で80名在籍している。 障害種別の面では、肢体不自由が最も多く(42名、53%)、聴覚障害(20名、25%)と視覚障害(11名、14%)がこれに続き、心臓や腎臓などの内部障害の学生も(7名、9%)いる。

 目次へもどる

2)学内生活

 学内の移動について、スムーズに行えるよう以下の措置がとられている。@歩行者用通路の勾配は基本的に15度以下に設定、A構内の屋外主要導線に点字ブロックの設置、B高低差の大きい箇所へのエレベータの設置、Cエレベータへは「身障者用操作ボタン」、「鏡」、 「点字表示」、「音声案内装置」、「挟み込み防止の安全機能」の設置と共に「扉開閉時間の調整」を実施、D学内施設においては自動ドアや引き戸を導入。E構内に障害学生用駐車スペースを設け、車椅子学生の自動車通学を許可、F移動時の荷物持ち運びを軽減するために「障害学生用ロッカー」を設置。

 学内生活上の配慮として、大学からの情報提供は「掲示板」と「学内放送」によって行われている。 @掲示板における掲示内容は、事務室の窓口で口頭で確認したり、事務用の「掲示控え」で確認することが可能、A聴覚障害のある学生には非常時(火災など)に「パトライト」および「フラッシュライト」で伝達、B聴覚障害学生へ非常連絡用のポケットベルの貸出し、C教室へのループアンテナの設置、D音声調整可能な公衆電話や車椅子用公衆電話を設置、E聴覚障害学生への連絡用として公衆ファックスの設置。

 トイレについては、身障者用トイレ(ウォシュレット、手すり、非常用ベル等整備)が設置されている。

 安全の確保について、全学の避難訓練において障害学生への対応を位置づけている。学内の大規模工事については障害学生のために、あらかじめ工事説明会を開催している。

 目次へもどる

3)学習生活

 学習生活については、@研究室の部屋番号の点字表示、A点字による教室表示、B車椅子学生用専用席の確保、Cバリアフリーコピー機(音声案内、フラッシュライト付)の設置、D障害学生休憩室の設置、などの支援がなされている。

 授業を受ける上での配慮事項として、4月のオリエンテーション時に、障害学生との個別面接を行うとともに、クラス制科目については4月にどのような障害学生がいるかを担当教員に伝えている。

 肢体不自由学生への配慮として、車椅子用座席を設置、上肢障害者へは、講義ノートをとるためにワープロの利用や講義の録音を許可している。講義の筆記や学内生活を介助するボランティアを大学として派遣している。

 視覚障害学生への配慮として、授業の資料についてはボランティアによる点訳、リーディングサービスを行っている。「英語」 および「社会福祉基礎演習」ではテキストの点訳を大学の責任で行っている。対象の学生には拡大コピーを用いている。

 聴覚障害学生への配慮として、ループアンテナが設置されている講義室がある。「移動式ループアンテナ」の貸出しも可能である。「FM補聴器」を利用できる。大学が開催するオリエンテーションやガイダンスへは「手話通訳者」、「ノートテイカー」の派遣を大学の責任で行っている。通常の講義の情報保障としてもこれらの派遣が可能である。教室のビデオボックスには「携帯用の蛍光灯」が常設されている。ビデオ教材へ字幕をつける環境も整備されている。

 内部疾患・精神障害の学生の配慮として、保健室や学生相談室の利用がある。

 体育実技では盲バレー、座位バレー、ゲートボール、アーチェリー、車椅子バスケットなどを取り入れているクラスもある。

 レポート・期末試験について、視覚障害学生への配慮については、レポートは点字、FD(フロッピーディスク)、録音テープ、友人の代筆により提出することが可能である。筆記試験は原則として点字で出題し、点字用の解答用紙も準備される。弱視の学生については拡大コピーで問題を用意する。必要な場合には時間延長も認められる。

 肢体不自由学生への配慮については、レポートはFD、録音テープ、代筆での提出が可能である。筆記試験では、文鎮の持ち込み、ワープロ、口述解答が可能である。大きめの解答用紙を用意することもできる。必要な場合には時間延長も認められる。

 聴覚障害学生への配慮については、試験時間中の指示など、文章で伝達を行う。

 教員への配慮については、視覚障害の板書の場合、なるべく大きな文字を書く。視覚教材を用いる方が理解しやすいと学生が申し出た場合には配慮を求める。聴き取りに障害のある学生がいる場合は、はっきりした発音でゆっくり話しをしてもらう。脳性まひに起因する障害を持っている場合、心理的緊張によって運動コントロールの困難が増大する場合もあり、授業中に発表させるような場合には、せかさずゆっくり待ってもらう。運動コントロールや筆記の困難さに対しても配慮してもらう。視覚障害の学生がいる場合、資料・板書など、なるべく詳しく解説してもらう。

 障害学生奨学金について、障害のために学修上特別な負担を有している学生に毎年ごとに給付される奨学金の制度がある(返還の必要なし)。

 目次へもどる

4)学内施設

 付属図書館におけるサービスとして、視覚障害学生への配慮については、対面朗読サービス、点字図書データの提供、点字図書・録音資料・大型活字本の収集、代行検索、図書・資料の出納などの利用援助、国立国会図書館「学術文献録音サービス」の受付、点字図書・録音図書の他館借り受けの窓口、機器の設置(拡大読書機、拡大レンズ、拡大コピー、立体コピー)などがある。聴覚障害学生への配慮については、筆談による利用相談、字幕付ビデオの購入、ビデオの英語字幕の呼び出しができるビデオキャプションの設置、携帯用ループの設置、などがある。肢体不自由学生への配慮については、車椅子用のトイレやエレベータ、車椅子用専用机、リクライニングチェア、低床コピー機の設置、職員による機械検索・各種目録等の検索、書棚からの本の出し入れなどの援助、などが挙げられる。

 メディア教育センターにおけるサービスとして、機器の利用などについての相談、「障害者支援ソフト」の試験的導入、点字・墨字プリンタの設置、(点訳する際文字入力の手間を省ける)墨字読み取り(文字認識)ソフトが利用可能、などが挙げられる。 パソコンには音声支援装置、点字ディスプレイが接続されており、視覚障害者が文章の編集を行えるようになっている。

 障害学生支援センターでは、当事者である障害学生や関係学生団体とともに、@障害学生のための施設・設備などの改善、A障害学生の学習・生活上の具体的な困難への大学としての支援の推進、Bボランティア(ノートテイク、OHP、手話通訳、生活介助、点訳、VTR テープおこし、VTR字幕つけ、リーディング、ガイドヘルプの募集・養成・派遣)、C他大学、他機関との連携推進、などを関係部局・機関と協力しながら進めている。

 目次へもどる

5)学外生活

 住居については、障害学生への配慮がなされている学生寮や、指定下宿の斡旋を行っている。交通移動については、障害学生は車両通学の許可を申請できる。ボランティアによる送迎をうけて大学へ通学することも可能である。

 目次へもどる

6)進路と就職

 障害学生の進路と就職については、情報の提供等を行っている。

 目次へもどる

(2) 立命館大学

 身体障害者援助は、該当者に対する個別の援助を本人の発達・社会的自立を阻害しない範囲で行うことを基本とし、勉学上の諸問題、日常生活援助上の諸問題等について関連各部課が協議を行い、問題解決のために取り組んでいる。

 視覚障害のある学生に対する援助としては、@点訳・墨訳・拡大コピー等についての費用の一部補助、A「英和辞典」、「国語辞典」等の点字辞書類の他、「基本法令集」などの点字資料を整備、B国立国会図書館の学術文献録音サービスによるテープの利用、C対面朗読室、点字タイプライタ、カセットテープレコーダ、拡大読書機等の設置、D図書貸出期間の延長措置、などがある。

 聴覚障害のある学生に対する援助としては、@本人依頼による手話通訳者またはノートテイカーに対する謝礼相当額の一部補助、A授業教室の一部に誘導コイル設置、B授業の際に音量を増幅させるワイヤレス補聴器等の機器の貸出、などがある。身体障害者用施設・設備としては、リーディングルーム、身体障害者専用トイレ・共用トイレ、手すりつきトイレ・洗面所、身体障害者用エレベータ、スロープ、階段のてすり、対面読書室、点字建物案内板、エレベータ内外の点字案内板、点字床タイル、ブロック、等が設備されている。

 リフト付市バスが大学を結ぶ区間を運行している。

 目次へもどる

(3) 関西学院大学

 身体障害学生支援マニュアルを全教員に配布している。大学や学部で把握していない比較的軽度の障害者や、入学後障害者となった学生が授業を理解するのに苦労しているケースも考えられるため、全ての教員に授業方法について協力を呼びかけることになった。教員に配布されるマニュアルには、最初の授業で障害のために特別の配慮が必要か否かを確認し、視覚障害学生に対しては資料・板書などをなるべく詳しく説明すること、また聴覚障害学生に対しては板書しながら後ろ向きで話すことを避けてできるだけゆっくり、はっきりとした発音で話すこと、などが明示されている。 

 目次へもどる

(4) 国立大学における現状

 国立大学協会第3常置委員会では、各国立大学の身体に障害を有する者への支援等に関する現状と課題を実態調査し、今後に必要な課題を提起する形で、2001年に『国立大学における身体に障害を有する者への支援等に関する実態調査報告書』を刊行した。本稿では、調査結果(第T部)をふまえての「第U部 国立大学における身体に障害を有する者への支援を推進するために」について整理することとする。

 目次へもどる

1)障害学生の受け入れ体制の整備

 1998〜2000年度までの三年間に障害学生の受験ないし受験相談のあった大学の数は80%に達している。また、入学者の数も80名前後と一定の数値を示し、障害の種別も多岐にわたっている。受験相談窓口はほとんどの大学に設置されているが、障害学生の受験に関する何らかの規程がある大学は31%、全学で統一した規程がある大学は14%と少なく、組織的な対応については不十分である。

 入学後の相談・支援の窓口について、当該学生の修学上の困難や支障に関する相談窓口を設けている大学は31%、相談に対処する特別な委員会等の組織を設けている大学は11%に留まっている。このような相談・支援体制の未整備には、障害学生の問題への全学的な関心がまだ低いことに加えて、相談・支援のあり方やシステムに関する情報の不足、モデルの欠如も大きく影響している。

 目次へもどる

2)障害学生のための施設・設備の整備

 障害学生の修学に必要な施設・設備については、整備の完了した大学が約20%、整備されつつある大学が60〜70%となっている。整備の内容としては、玄関等のスロープと自動ドア、身障者用トイレ、身障者対応のエレベータ、身障者用駐車スペース、視覚障害者用の誘導ブロック、車椅子用座席などが中心である。本報告書では資料として「障害学生からの声」を掲載しているが、施設・設備について、大学側が必要と考えるものと障害学生が求めるものは大筋では一致している。しかし、その設置後に、実際には利用困難なもの(例:エレベータはあっても建物入口にスロープがない)や役立たないもの(例:急すぎて使えないスロープ)もあり、施設・設備の設置と充実にあたっては、その内容をよく検討する必要がある。

 目次へもどる

3)障害学生の授業・学生生活に関する支援体制の整備

 障害学生に対する講義や実験・実習・実技上の特別措置は約70%の大学が行っている。しかし、全ての授業で措置できている大学は4校に過ぎない。また、措置の内容については、授業場面での支援(聴覚障害学生のための手話通訳・ノートテイク)、受講不可能な授業の代替単位の認定、テストへの配慮など、必要最小限の《バリア除去》の段階に留まっている。施設・設備という「ハード面」に比べて、「ソフト面」の整備は不十分な状態にあるといえる。

 目次へもどる

4)教官への支援体制の整備

 障害学生の受講にあたって、授業を担当する教官側にも、「どのように対応したらよいのか」、「具体的にどんな配慮をしたらよいのか」という戸惑いが多いことも事実である。したがって、障害学生の学習支援においては、「授業担当教官への情報提供と支援をどう行うか」という視点も不可欠となる。

 目次へもどる

5)ボランティア等の支援体制の整備と一般学生に対する啓蒙

 学内の一般学生や教職員他による学習支援組織については、「ある」と答えた大学は15%のみである。また、一般学生に対して障害学生についての何らかの啓蒙活動を行っている大学も14%に留まっている。さらに、一般学生による障害学生支援を授業の一部としたり、単位に組み込むなどしている大学はわずか12%である。その一方、授業場面での支援等については、一般学生の無償ボランティアに頼っている大学が65%に達し、報酬を予算化している大学は10%に過ぎない。大学側の支援体制の整備と合わせて、障害学生に対する一般学生の理解を深め、一般学生による支援のシステムを構築していく努力が早急に求められている。なお、障害学生からの意見として、点字・手話通訳等の専門的な技能領域については、学内支援だけでは不十分であり、学外の支援団体・個人への委託も考えてほしいとの声もあった。

 上記1)〜5)における提言は表の通りである。

表11 国立大学における身体に障害を有する者への支援等に関する提言*

1. 障害学生の受け入れ体制の整備
(1)  各大学において、障害学生の修学支援に対する全職員の関心を高めるとともに、組織的な相談・支援体制を整備していくことが必要である。
(2)  そのためには、各学部委員から構成される全学的な「障害学生支援委員会」を設けるべきであり、将来的にはこの委員会を恒常的な「障害学生支援センター」の設置へと発展させていくことが望まれる。
(3)  国の援助のもとに、基幹大学に「障害学生支援情報センター」を開設し、公立大学や私立大学を含む全国の大学に障害学生支援に関する情報を提供することが望まれる。
   また、全国のエリアごとに障害学生支援の中核となる大学を設け、基幹大学・エリアの中核となる大学・個々の大学の間の情報ネットワークを形成していく必要がある。 
2. 障害学生のための施設・設備の整備
(1)  障害学生の修学に必要不可欠な基本的施設・設備の早急な整備が必要である。
   また、最も切実な施設・設備の整備に加えて、今後は、点字・音声表示を備えた学内・建物地図、音声誘導装置の設置など、よりきめ細かな設備の充実が求められている。
(2)  障害学生用の施設・設備の整備にあたっては、大学側が一方的に設置するのではなく、障害学生側の希望や意見をよく聴取して、真に利用しやすく役に立つ設備・施設を整えていく必要がある。 
3. 障害学生の授業・学生生活に関する支援体制の整備
(1)  障害学生の修学と学生生活を快適で充実したものにするための組織的な取り組みが必要とされている。そのためには、1の(2)に挙げた障害学生支援委員会を学内に設置して、障害学生のキャンパスライフの相談窓口になると共に、当該委員会において障害 学生支援の方策と内容を日常的に検討し、全学の教職員に広めていくことが求められる。
(2)  障害学生の修学への支援を、授業における《バリア除去》だけでなく、入学時のオリエンテーションやガイダンス、クラス構成上の配慮、授業における教官側の配慮と工夫、授業外の学習に対する支援、メンタル・ヘルス・ケアなど、より広範できめ細やかなものに高めていく必要がある。
(3)  障害学生の授業履修にあたっては、障害の様態に応じた特別コース・クラスの設定や、履修が困難な科目の代替措置など、カリキュラム上の配慮と工夫が必要である。
4. 教官への支援体制の整備
(1)  今回の調査には、障害学生の授業を担当する教官側の意見や授業実施上の問題点を問う項目、教官への情報提供や支援の実態を問う項目が設けられていない。今後の同様の調査にあたっては、これらの内容項目を盛り込んでいく必要がある。
(2)  障害学生の支援においては、授業を担当する教官への情報提供と支援も必要不可欠であり、それを可能にする学内体制の整備(1の(2)にあげた障害学生支援委員会や障害学生支援センターの設置)と、全国的な情報提供システムの整備(1の(3)にあげた障害学生支援情報センターの設置)が求められる。 
5. ボランティア等の支援体制の整備と一般学生に対する啓蒙
(1)  一般学生に対して、入学時や在学中に、障害学生支援に関する理解教育を行う必要がある。
(2)  障害学生への支援活動は、一般学生にとって重要な意義をもつが、支援のすべてを無償ボランティアに頼ることには限界がある。今後は、国側においては報酬の予算化措置、大学側においては学生による支援活動の授業内での位置づけや単位認定など、一般学生の支援活動を定着させ組織化していく取り組みが求められる。
(3)  専門的技能を要する支援領域については、学外の支援者への委託など、地域社会との連携も考えていく必要がある。

                * 国立大学協会第3常置委員会(2001)19-22頁より

 

 目次へもどる

6)卒業後の進路開拓

 障害学生の約1/3は、卒業後の進路が未決定の状態である。障害学生の卒業後の進路に関する追跡調査をさらに綿密に行うと共に、在学中だけでなく、就職先の開拓等、卒業後の進路に関する取り組みも今後必要とされる。

 目次へもどる

7)まとめ

 現在のところ、障害学生への実際的な支援は、その学生を受け入れた学部・講座・教職員の努力にゆだねられることが多く、全学的な取り組みのレベルには到っていない。今後、大学人全体が障害学生の存在に関心と理解を深め、全学的にその支援に取り組んでいくことが求められている。国立大学が率先して障害学生の支援に取り組み、社会に対して支援と共生のモデルを提示していくことは大きな使命の一つといえる。

 目次へもどる

(5) 全国障害学生支援センター

 1999年4月、障害のある学生の様々なニーズに応えるために、「全国障害学生支援センター」が設立され、同年10月に、「わかこま自立生活情報室」から大学案内関係の業務を引き継ぐ形で町田市で活動を開始した。

 センターでは、受験や入学後の学生生活・サポートに関する相談を受け付けている。視覚障害・聴覚障害・肢体不自由の当事者が電話、ファックス、対面で相談に応じている。

 また、各大学の障害学生受け入れ状況や設備体制についての情報提供や『大学案内障害者版』の発行を行っている。この冊子は、障害のある受験生に対して、入試情報、受験可否、外国籍を持つ障害学生の受験可否、障害学生のための大学における設備・支援体制、スクールバスや下宿紹介等について、障害当事者の視点で編集されている。国内の他大学における障害学生支援の取り組みについてはこの冊子に概要が掲載されている。

 さらに、センターでは、情報誌『障害をもつ人々の現在』を定期的に刊行し、毎年「障害学生交流会」を開催している。

■文 献
1.国立大学協会第3常置委員会(2001): 国立大学における身体に障害を有する者への支援等に関する実態調査報告書. http://www.kokudaikyo.gr.jp/chosa/txt/h13_6.html
2.日本福祉大学障害学生支援センター(1998): 障害を持つ学生のために キャンパス・ガイド. http://www.n-fukushi.ac.jp/shiencenter/index.htm
3.立命館大学(2001): 身体障害者援助. http://www.ritsumei.ac.jp/acd/ac/kyomu/guide/frame8.htm
4.全国障害学生支援センター(2002): 大学案内障害者版.
 

 目次へもどる

 

2.国 外

 現在、日本の高等教育機関では、大学によって差はあるものの、障害のある学生や志願者への援助が様々なレベルで行われるようになっている。

 例えば、福岡教育大学(以下本学)を例にとっても@入学試験に際しての配慮(例:個室受験、手話による面接)、A入学後の履修への援助(例:FM補聴器の使用への教官の協力、聴覚障害学生の基礎免許の教育実習を聾学校で行うなど)、B学内の物理的環境の改善を含む教育環境の整備(例:エレベータ、スロープ、点字ブロック)などがあげられる。

 しかし、障害のある大学生への支援に関して先進国である米国や英国と比べると、大学組織としての包括的な援助は最近になって行われるようになったにすぎない。米国で行われているように学内の学習支援センターの設置やFDを活用して障害に関する知識や支援技術を大学の教職員に教授するシステムもなかった。そのため、本学では、事務局や学生課(現学生センター)、入試係など関連する部門、学生の所属教室や、知識や支援技術をもつ保健管理センター、障害児教育講座、体育講座などが、時には個人レベルや講座レベルで連携しながら限られた範囲で支援が行われてきたにすぎない。

 今回の研究では、大学組織として障害のある学生への支援をより発展充実させていくために参考になると考えられる先進的支援の事例を米国と英国にもとめ調査を行った。

 米国については、大学に在籍する障害のある大学生の実態、特に日本では教育的定義がなされたばかりの「学習障害」に関する支援実態の調査(ウイスコンシン大学オシコシ校)を要約し報告する(河村・納富:投稿中)。また英国からは、通信教育の分野で、長い伝統と実績をもつオープン・ユニバーシティー(以下OU)の障害学生受け入れの実態を国立情報学センターの調査(広瀬,2000)から、要約し紹介する。

 目次へもどる

(1) 米国の大学における障害のある学生の実態−学習障害の学生への支援を中心に−

 米国の大学における障害をもつ学生の受け入れは、日本の大学と比べて進んでいる。米国において1998年に大学に入学した障害をもつ学生の数は154,520人で、全新入学生の9%である。このうち学習障害(LD)をもつ学生は3.5%であり、1998年の障害をもつ入学生のうち41.0%であり、最も大きな割合を占めている(Henderson,1999)。

 米国における学習障害(Learning Disability)は、1975年連邦法であるEducation for All Handicapped Children Actで、全州で特殊教育の対象として個別教育プログラム(IEP)を作成し教育を行うことが規定された新しい教育概念である。学習障害は、日本においても1999 年に旧文部省によって特別な教育支援の必要な状態として最終定義がなされた。この定義によれば「学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。」(1999年)とされる。知能に遅れがないことから、ほとんどの学習障害児が通常学級に在籍し、そのために通常学級での実態の把握や教育支援の在り方を明らかにする必要がある。「21世紀の特殊教育の在り方」の報告書にも指摘されているように、日本の学校教育が直面する重要な課題の1つである。

 平成12年からは、旧文部省は、小・中学校でどのように学習障害のある児童生徒を把握し評価し特別な教育支援を行うかを明らかにするために全国の教育委員会に委嘱が行われ研究が開始された。

 現在、米国には約3,500校の大学(2年制の大学を含む)がある。LDADHDをもつ学生に対するプログラムをもつ大学のガイドブックである「Peterson's Colleges with Programs for Students with Learning Disabilities or ADHD」によると、1997年の時点で1032校(2年制大学を含む)がLDをもつ学生に対し何らかのプログラムを持っている(Mangrum & Strichant,1997)。

 これらのプログラムは2つのタイプに大別でき、1つは、治療教育を含めたLDを専門とする内容をもち、適切なトレーニングを受け経験もあるスタッフを配置した総合プログラム(comprehensive program)、2つめは、総合的ではないがLD学生にサポートサービスを提供している特別プログラム(special program)である。この総合プログラムをもっている大学は198校で全体の18%である(Mangrum & Strichant,1997)。このことから一般的なタイプのプログラムは治療教育を含めた広範なサービスを提供するものではなく、授業参加の際の補助(録音されたテキスト、ノートテイカー)、補助的コンピューターテクノロジーなどの提供を中心とするものである(Schuck,1997)。

 では、なぜ米国の大学においてはLDプログラムが急速に普及してきたのだろうか。その要因として、@高等学校における援助プログラムの広がり、ALD学生の大学進学への願望、B権利擁護者(advocates)からの要請、C大学存続のための大学の財政的な理由、そして最も重要な要因として、D1973年リハビリテーション法第504条の制定が挙げられる(Mangrum & Strichant,1983)。このリハビリテーション法第504条と、1990年に制定された障害をもつ米国人法(ADA)が障害をもつ学生の高等教育機関への参加保障について規定している(Smith & Strick,1997)。

 目次へもどる

1)ウィスコンシン州立大学オシコシ校におけるLD学生支援プログラム(Project Success program) について

 筆者の共同研究者河村は、ウィスコンシン州立大学オシコシ校(University of WisconsinOshkosh、以下、UWO)にTeachers of Japanese Internship Programのインターンとして1998年9月から1999年5月まで所属し、この間に同校のLDをもつ学生のためのプログラムについて調査を行った。まず、LDプログラム担当者(プログラムマネジャー)に許可を得て、報告書などのプログラムについての資料を入手し、不明な点等について同プログラムマネジャーに直接面接調査を行った。これらの方法に加えて学生自身のプログラムの評価や授業の実際についても質的調査を行うため、LD学生が履修する授業に参加しLD学生にも直接面接調査を行った。

 UWOLDプログラムは、総合プログラムを提供しており、特別な支援部門をもちLD専門家スタッフを配置し、志願者選考過程にも専門家チームによる特別な選抜方法をとっていた。以下にその実際について述べる。

<歴史>

 UWOLDのある学生(以下、LD学生とする)のためのプログラムであるProject Success program(以下、プロジェクトサクセス)は、1979年に、自身も読み書き障害をもつロバートナッシュ教授によって開始された。6名のLD学生を対象に開始されたが、1992年から1997年の間にはプロジェクトサクセスに参加している学生の60%が同校を卒業、または他大学やその他の高等教育機関へ編入している(Project Success Annual Report,1998-1999)。米国では入学した大学をそのまま卒業する学生は、全体でも平均6割程度であり(江原,1994)、プロジェクトサクセスへ参加したLD学生はLDのない学生とほぼ同様に学業を達成しているといえる。

<組織>

 このプログラムはUWOに入学したLDをもつ学生を支援するものであり大学の学科ではない。したがって学生は、それぞれの志望に従って専攻を選び、このプログラムの支援を受ける。

<スタッフ体制>

 プログラム全体の運営や調整に携わるディレクター1名、同じくプログラムの運営や調整、また学生からの様々な相談を受けつけている専属インストラクショナルプログラムマネジャー1名、プログラムに関する様々な雑務を担当している専属プログラムアシスタント1名、そしてプログラム参加学生のチューターを担当する学生チュータリングスタッフ約50名で構成されている。

<目的>

 プロジェクトサクセスでは、サービスの受け手であるLD学生が、spellingreadingwritingcomprehensionstudy skillsmathematicsの領域におけるlanguage independent、つまり「自立した学習者」(江原,1994)となることを目的としている。このために、ナッシュ教授が言語治療教育のために開発した、Multisensory Instruction Procedure(以下、SMSIP)を用いている。このように学習環境を調整するのみでなく、治療教育に主眼が置かれている。

<参加要件>

 米国の多くの大学は、志願者が入学または編入学するために十分な学力適性があるかどうかを判断するために、学力評価テストであるAssessment College Test (ACT)またはScholastic Assessment Test (SAT)の受験を要求している。

 前述したように、プロジェクトサクセスはサポートプログラムであるので、プロジェクトサクセスへの参加を希望する学生も、まずオシコシ校本部が定める入学基準を満たす必要がある。原則としてACTで22点以上獲得しているか、高等学校での成績がクラスの上位50%以上に入っていることが求められる。また、高等学校において、Englishを4年間(内3年間は通常クラス)履修していること、また、代数もしくは代数を基礎必須科目としているコースの履修、自然科学を3年間履修、一般教養科目を4年間履修していることが求められている。もし、これらの要件を満たしていない場合には、入学予定年の一年前の夏にプロジェクトサクセスのSummer Transition Program(後述)に参加する必要がある。

 そして、プロジェクトサクセス参加のためには、LDであることを証明した書類が求められる。この書類はLDを診断する資格をもつ専門家(免許をもつ心理士、LDスペシャリスト、神経心理学者)が過去3年以内に診断したものであること、さらに複数の専門家が総合的に評価したものであることが望ましいとされている。

 <プログラム内容>

 大学本部とプロジェクトサクセス参加の要件を満たした学生に対し、大きく4つのカテゴリーに分けられるプログラムが提供されている。T.Summer Transition Program(夏期移行プログラム)、U.Remedial and Support Services(治療と支援のサービス)、V.Social Remediation Program(社会的治療プログラム)、W.その他のサービスの4つである。詳細については、河村・納富(投稿中)の報告を参考にされたい。

 目次へもどる

2)日本の大学における障害のある学生支援への示唆

 UWOのプロジェクトサクセスは、LDをもつ学生に対する治療教育を中心とした総合プログラムであった。その特徴は、LD学生が「自立した学習者」となることを目指すという独自のプログラム目標を持つことである。この目標を実現するため@Summer Transition Programの実施、A一般的なサービス(ノートテイカーなど)は採用していないこと、BSMSIPによる言語治療教育が挙げられる。

 特徴の@として挙げたSummer Transition Programは、入学前に学業に必要なスキルや、大学生活において大切なスキルなどを指導しており、LDをもつ学生が大学生活に適応していくために有効なサポートと思われる。理由として、高校生活から大学生活へ移行する際に、親元を離れて寮生活を送る等の生活環境変化、学習環境の変化が大きいことが挙げられる。特に学習環境の変化に対して、ノートテーキングやテスト勉強のやり方、SMSIPで学んだreading / spelling skillの応用の仕方を実際の授業の中で学べるようになっている形式は、スキルが般化することを目指しているものであり、大学の授業に対する不安も大きく軽減するものであると考えられる。

 特徴のAとして、一般的である補完的なサービスが提供されていないことを挙げたが、これはプロジェクトサクセスが「自立した学習者」の育成を目指しているためである。教科書を読んだり、レポートを書いたりするために、独自の言語治療教育プログラムであるSMSIPによるreading / spelling skillの指導が行なわれており、また、Summer Transition programにおいてノートテーキングのやり方を指導している。このように言語を中核とした技能開発をすることで「自立した学習者」を育てているのである。

 特徴のBでは、SMSIPによる言語治療教育を挙げたが、このSMSIPのもたらす効果について、実際に参加していた学生2名に共同研究者河村がインタビューを行なった。Aくん(1999年の時点で3年生、特殊教育学専攻)は、専門用語、音節の長い単語に関してはまだ読むこと、書くことに難しさがあるが、SMSIPを学んだ後読むことが以前と比べて楽になったと述べていた。高等学校では常にB以下の成績だったにも関わらず(チュータリングのサービスは受けていた)、大学ではB以上の成績を取っているということであった。

 軽度の読み書き障害をもつBくん(1999年の時点で4年生、ビジネス・国際研究専攻)は、SMSIP受講後、読むことが容易になった気がするが、SMSIPのクラスは様々なレベルの読み書き障害の学生がいるため全般的に退屈なものだったと語ってくれた。

 2名の話からは、SMSIPは基礎的な単語の読み書きスキルを習得するものであり、読み書き障害の程度に応じて援助の受け手が認知する効果に差があることがうかがえる。

 これまでにプロジェクトサクセスの大きな3つの特徴について述べたが、同プログラムのキーワードは「自立した学習者(language independent)」であり、これは今後のわが国の高等教育機関におけるサポートプログラムを考えていく上で、大きな示唆を与えるものであると考えられる。録音されたテキストなど補完的なサポートの導入だけでなく、「自立した学習者」という視点からのスキル開発は社会自立につながる大切な要素であると考える。

 この調査で得られたUWOLD学生へのサポートプログラムの実態調査から、大学における障害のある学生支援へのいくつかの示唆が得られる。

 その歴史からは、大学が新しい試みであるLD学生へのプログラムの試行を許容し、それを発展させていくことができたこと。またその目標は学生の学習者としての自立におかれ、方法としては学習障害に特異的な治療教育を導入していたことである。学習障害の学生に対して、社会的自立へのプログラムを提供していることやその効果が優れていることが、志願者や保護者から高い評価を受け、結果として大学の評価も高まり、寄付など経営上も大学を利することになったことも注目される。

組織としては、通常の学科としてではなく、支援センターとして設置され、専属のスタッフに加え、学生スタッフを有効に活用していることが注目される。

カリキュラムの特徴としては、入学前の準備教育で、とくに治療教育と大学の授業への準備教育が行われていることや、入学後もセンターでの個別的な支援に加え、特別なカリキュラムが用意されているなど、大学入学前後を通じて、一貫した配慮がなされていることがあげられる。

 今後、日本の高等教育機関で、LDADHD、高機能自閉症など認知面に障害のある学生への支援も必要になってくる日が近いと考えられるが、米国の大学での障害学生の支援プログラムは、そのプログラムの背景にある法的な根拠は異なっていても十分参考になると考えられる。

 目次へもどる

■文 献
1.江原武一(1994): 現代アメリカの大学−ポスト大衆化をめざして―. 玉川大学出版部, pp.56-62.
2.Henderson, C.(1995): College Freshmen with Disabilities: A biennial statistical profile. American Council on Education, HEATH Resource Center, Washington, DC.
3.Henderson, C.(1999): College Freshmen with Disabilities: A biennial statistical profile. American Council on Education, HEATH Resource Center, Washington, DC.
4.岩澤一美(山口薫)(2000): 学習障害・学習困難への教育的対応―日本の学校教育改革を目指して―. 文教資料協会, pp.140-145.
5.河村あゆみ、納富恵子 米国の大学におけるLDをもつ大学生のためのプログラムの実際.
(投稿中)
6.Mangrum, C.T. & Strichant, S.S.(1983): College Possibilities for the Learning Disabled: Part One. Learning Disabilities, II-5, pp.57-67.
7.Mangrum, C.T. & Strichant, S.S.(1997): Colleges with programs for students with learning disabilities or attention deficit disorders. Peterson's.
8.大泉溥(1991): 障害学生問題の特質と大学としての配慮(一)―1989年度障害学生実態調査から―. 日本福祉大学研究紀要, 86, 447(2)-442(7).
9.Project Success, University of Wisconsin Oshkosh(1999): Project Success Annual Report 1998-1999.
10.Project Success, University of Wisconsin Oshkosh(2001): Project Success Annual Report 2000-2001.
11.Project Success, University of Wisconsin Oshkosh (2001): http:// www.uwosh.edu/ success / home.html
12.Smith, C. & Strick, L.(1997): Learning disabilities: A to Z: a parent's complete guide to learning disabilities from preschool to adulthood. Free press, pp.339-348.
13.Schuck, J.(1997): 障害学生の高等教育―障害別・問題別の視点から―. 多賀出版, pp.497 -529.
14.都築繁幸(1998): Faculty Development研究と障害学生への配慮―アメリカ・カナダにおける学習障害学生の援助サービスを中心に―. メディア教育開発センター研究報告, 5, pp.145-158.
15.拓植雅義(1999): 南カリフォルニアのコミュニティカレッジ・大学における学習障害へのサポート状況. 日本LD学会第8回発表論文集, pp.72-75.
16.わかこま自立生活情報室編集・全国障害学生支援センター編集協力(1999): 大学案内2000障害者版.

17.拓植雅義(山口薫)(2000): 学習障害・学習困難への教育的対応―日本の学校教育改革を目指して―. 文教資料協会, pp.145-151.

 目次へもどる

(2) 英国Open Universityの障害のある学生への支援

 英国Open University(以下、OU)は、30年の歴史をもつ通信制の大学であり、在学生20万人の高等教育機関として英国最大規模の大学である、学士、修士、博士課程の他に、ビジネススクール、福祉、看護、教育、コンピュータープログラミングなどの資格(DiplomaCertificate)を授与している。これまでに20万人の学位授与を行い、教育網はシンガポール、香港をはじめヨーロッパ全土にわたっている。

 本部はロンドンから1時間のミルトン・キーンズに置かれ、英国全土に13の地域センター、その下に合計305の学習センターを持つ。学生は各地の学習センターに配属され、そこで入学や学習の相談、面接指導が行われる。スタッフはOU全体で、常勤が3,750名、内研究者900名、行政事務1,050名、秘書、事務員、技術者が1,800名であり、各地の学習センターに約7,000名の非常勤講師が配属されている。

 1997年度の在学生数は、学部12万5千人、大学院3万9千人、学生総数16万4千人で、うち2万人は国外に居住している。学部生の平均年齢は37歳である。

 OUは1971年の設立当初から、障害者の学習支援を積極的に行い、代替教材の作成や、官民連携を積極的に行いながら、多様なメディア技術を駆使し障害の有る学生の支援を行っている。1996年の段階で、障害をもつ学生登録者数は5,622人で、OU登録学生の4%を占める。学士コースで登録されている障害のカテゴリーは、多い順から、視覚障害、聴覚障害、精神障害、学習障害である。

<多様な学生を中心に据えたサービスが可能になった背景>

 OUの学生は、テレビやラジオを通じた授業やメディアセンターで開発された印刷教材、CPソフトなどを活用し自宅学習が可能である。このことは、どのような障害があっても、大学に通学しなければならないというアクセスに関する障壁がないことを意味している。

 しかし、教育の質を落とさないために、学生は個人にニーズに応じた学習の支援を、身近な学習センターでの個人指導を通じて受けることができる。

 また、英国においては、1990年に入り、大学も市場原理に基づいたマス化、ユニバーサル化への対応を迫られ、高等教育の需要の拡大に対し、コストは削減しながら質を保つことが課題となった。OUにおいては、大学全体でのコンピュータの利用と、IT技術の活用が、この課題を克服するために最大限に利用されている。

 学生が利用するOUサービスという視点から整理すると、@障害のある学生は、OUのホームページから必要な情報や担当者に容易にアクセス可能である。A障害者担当事務局があり、情報提供、サポート、代替教材の提供、貸与と関係部署との調整を行い、入学前から入学後まで一貫して助言を継続している。Bメディア支援:機器貸し出しや訓練や貸与。C学習教材の開発。D対面支援として、コミュニケーションサポートスタッフも配置されている。Eサマースクールによる入学への準備。F成績評価 課題の形態や、課題提出の方法については代替の方法がとられる。G大学としても、ITを利用した授業を計画的に拡大させるなどカリキュラムの改善や、スタッフ・デヴェロップメント(staff development)を通じて、教職員に障害のある人への支援に関する教育をおこなっている。

 以上、OUの障害のある学生への支援を概観したが、OUにおいては、一見、手間がかかり労力がかかると感じられる障害学生への学習支援に早期からとりくんだことで、時代に先駆けた、新しい高等教育の姿にいち早くたどり着けたのではないだろうか。OUがとりくんできた支援組織や方法は、本学の将来像や、FDのありかたにも貴重な示唆が得られると考える。

 目次へもどる

■文 献

広瀬洋子(2000): インフォメーションテクノロジーと高等教育 英国オープンユニヴァーシティーにおける障害者の学習支援システム. メディア教育研究, 5, 1-25.

 目次へもどる